東日本大震災 命つないだメール 奈良の医師「薬補給ルート確立を」
産経新聞 5月11日(水)15時50分配信
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岡本内科こどもクリニック(奈良県桜井市)の岡本新悟院長(写真:産経新聞) |
震災で直接命の危険にさらされたケースは確認されていないが、患者らは「災害で物流が途絶えること自体が、命にかかわる『恐怖』。そういう病気に悩まされている人の存在も知ってほしい」と話す。
「中枢性尿崩症や下垂体機能低下症、副腎不全、甲状腺機能低下症の患者は、ホルモン剤が途切れると命の危険にさらされる。緊急補給ルート確立を」
震災発生から3日目の3月13日夜、患者会や内分泌学会の医師らにメールを送ったのは「岡本内科こどもクリニック」(奈良県桜井市)の岡本新悟院長。岩手県内の患者の親戚からは、メールをみて“救助”を求める連絡もきたという。
たとえば「中枢性尿崩症」の患者は、「デスモプレシン」という点鼻薬を毎日服用し続けなければ、体内の水分が大量に尿中に排出されてしまい、脱水に陥り命にかかわる。
メールは、「中枢性尿崩症の会」の大木里美副代表(40)=埼玉県本庄市=によって転送され、広められた。大木さん自身も尿崩症を患っており、震災当日は外出していた。「薬は持っていたが、交通機関が寸断されて『帰宅難民』になるのではと怖かった」
メールは、14日中に早稲田大YMCA災害援助ボランティア隊の理事を務める加納貞彦・早稲田大教授がキャッチし、同隊が搬送を申し出た。岡本院長が用意したホルモン剤を同隊が東京で受け取り、車で搬送、17日には東北大病院に無事届けられた。
薬がどの患者に伝わったかは追跡できていないが、同病院から岩手県が知らせを受け、安否確認につながった例もあるという。東北大病院内分泌科の伊藤貞嘉教授は「行政などに患者の存在を周知でき、補充体制も確立できた点で意義は大きかった」と話す。
岩手県内のある男性患者の父親は、「息子は病院から薬をもらったばかりだったが、津波から逃げ、家族が無事であることを確かめたあと、まず薬が無事か確認した。薬を届けようとしてくれた人たちのことは後で聞いたが、とてもありがたい」と話していた。
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最終更新:5月11日(水)16時1分